数字は嘘をつかないが、人を追い込む
「3時間にわたってカウンセリング室に閉じ込められた」
「希望していなかった高額プランを契約させられた」
──そんな証言が、TCBの報道では繰り返し登場する。

【連載企画】美容医療チェーンの落とし穴
美容医療業界で急成長を遂げた「TCB東京中央美容外科(以下TCB)」が、近年複数の報道により厳しい批判にさらされている。本連載では美容外科TCBを巡る一連の報道によって、美容医療業界の“成長と暴走”の構図を浮かび上がらせた同クリニックの運営体制に関して指摘された事象を整理した上で、業界全体が学ぶべきリスクマネジメントの教訓を抽出する。

この連載では、同社に対して報じられた4つの問題――
——をテーマごとに分析し、「他山の石」として他クリニック経営にどう活かすかを掘り下げていく。
強引な契約と“押し売り構造”の末路
営業手法が組織を蝕むとき
対象は糸リフトや鼻の施術。金額にして100万円を超える契約もあったとされる。
この問題の本質は、「押し売り」ではなく営業設計そのものが患者との信頼関係を前提にしていないことにある。
そしてそれは、TCBだけでなく、美容医療業界全体が“業界構造として抱えている病理”でもある。
報道された“強引な契約”の構造
報道内容を整理すると、以下のような特徴が見られる:
- 初診の来院後、カウンセリングだけのつもりが施術前提の営業に切り替えられた
- カウンセラーが粘り強く施術契約を提案し、帰ろうとすると引き留められた
- 当初予定していた施術内容とは異なる「アップセル」や「セットプラン」が提示された
つまり、「相談」ではなく「営業」、
「説明」ではなく「クロージング」──その境界が曖昧な現場構造があったと考えられる。
なぜ“強引な営業”が常態化するのか?
美容医療業界で強引なクロージングが根付きやすい背景には、いくつかの構造要因がある。
■1. 営業成果が「個人評価」に直結している
カウンセラーや受付スタッフに**“契約率”や“平均単価”がKPIとして課される**と、「契約を取ること」が目的化されてしまう。
しかも歩合や報酬が連動する場合、心理的なプレッシャーが“押し売り”を誘発する土壌になる。
■2. 医師が“営業に関与しない”運営モデル
医師が「施術者」になり、カウンセラーが「営業担当」になってしまうと、“売る人と治す人が別”という構造的分断が起きる。
ここに「責任の不在」が生まれる。
■3. 売上目標が“組織原理”になっている
「月間〇万円がノルマ」「1人平均〇〇円が目標」といった数字が現場の指標になると、契約を断る自由が失われる。
この構造がある限り、「強引さ」は“個人の資質”ではなく“制度の産物”となる。
“営業構造”が信頼を奪うメカニズム
1. 患者が「だまされた」と感じる
契約はしているが、「納得していない」。
これは表面上の成約率が高くても、実態としては“不満率”が高い状態であり、リピートや紹介が生まれにくい。
2. スタッフの“感覚が麻痺”していく
数字に追われるうちに、「これは押し売りではない」「患者のためだ」と自己正当化が進む。
最終的に、“提案と強要の違いが分からなくなる”。
3. 経営者が“売上だけ見て正当化”する
「売上が上がっている=うまくいっている」と判断する経営者は多いが、その背後にある現場の崩壊に気づかない。
長期的に見ると、口コミ・紹介・信頼の損失によって売上自体が先細りする。
“売る構造”から“選ばれる構造”へ
✔ クロージング指標ではなく“理解度”を測る
- 「契約数」ではなく、「患者がどれだけ納得して選択できたか」を評価指標に
- アフターカウンセリング、一定時間の熟慮期間、強制的な“当日契約禁止”制度の導入も選択肢
✔ 医師が説明責任を担う
- 医師がカウンセリングに積極的に関与し、医学的な必要性と選択肢を提示する
- カウンセラーはあくまで“サポート役”であるべき
✔ 「契約率」から「継続率」へ
- 患者の“再来率”や“口コミ件数”をKPIに据えることで、信頼を基盤にした営業構造にシフトできる
数字の奥にある「人の感情」を見失わない
売上は大切だ。経営を安定させるためには、数字は避けて通れない。
だがその数字が、“患者の我慢”や“スタッフの無理”によって成り立っているなら、それは遅れて請求されるツケにすぎない。
美容医療におけるカウンセリングは、「売る場所」ではない。
迷いや不安に寄り添い、自ら選んでもらうための時間だ。
信頼されるクリニックとは、最終的に「選ばれ続ける構造」を持っている。
それを支えるのは、営業力ではなく、誠実な仕組みと文化である。
