成長とともに見逃される“管理の盲点”
美容医療は高粗利業態であり、参入障壁も比較的低い。そのため、拡大スピードが早い法人ほど、財務・税務の内部統制に遅れが生じやすい。
2024年に報じられたTCBの「約9億円の申告漏れと追徴課税」は、まさにその典型である。

【連載企画】美容医療チェーンの落とし穴
美容医療業界で急成長を遂げた「TCB東京中央美容外科(以下TCB)」が、近年複数の報道により厳しい批判にさらされている。本連載では美容外科TCBを巡る一連の報道によって、美容医療業界の“成長と暴走”の構図を浮かび上がらせた同クリニックの運営体制に関して指摘された事象を整理した上で、業界全体が学ぶべきリスクマネジメントの教訓を抽出する。

この連載では、同社に対して報じられた4つの問題――
——をテーマごとに分析し、「他山の石」として他クリニック経営にどう活かすかを掘り下げていく。
第1回:財務の“緩み”が経営全体を壊す
〜TCBの申告漏れから考える美容医療法人のガバナンス〜
「ミスではなく体質」「ずさんな管理」「拡大に伴う副作用」――報道を見た業界関係者の多くが、こうした言葉を口にした。
しかし、問題はTCB一社の話ではない。成長する美容医療法人すべてに起こり得る構造的リスクである。
本稿では、TCBの事例を起点に、「財務管理体制」「外部監査」「税務意識」の観点から、美容クリニック経営に潜む盲点を読み解く。
申告漏れ報道の概要と注目すべき点
2024年4月、文春オンラインはTCBを運営する法人が「約9億円の申告漏れを国税局から指摘された」と報じた。
これは以下の2点から重大である。
- 一般的な中小クリニックではあり得ない規模(億単位)
- 指摘された期間・金額から見て、「故意性」や「組織的放置」が疑われる
「美容医療法人の税務」は、広告費や在庫(薬剤・フィラー)・役員報酬の扱いなどでグレーゾーンが多く、拡大とともに“税務の複雑性”が跳ね上がる。
しかし多くの法人では、院長の周囲にいる顧問税理士が「個人診療所レベルのまま」財務を見ているという現実がある。
なぜ美容医療チェーンは財務が緩みやすいのか?
TCBに限らず、美容医療法人の財務が不透明化・属人化しやすい背景には、以下の構造的要因がある:
1. 拡大スピードと会計処理が乖離する
毎年数院ずつ開院するような拡大ペースでは、現場のオペレーションが優先され、経理・総務体制は後回しになる。
「とりあえず顧問税理士に渡せばいい」という処理で進めてしまうと、チェック機能が機能不全を起こす。
2. 院長や本部の「見えない支出」が膨らむ
高額な広告投資、役員報酬、紹介料、インフルエンサー関連費、場合によっては“キックバック”なども発生し、科目の不一致や現金処理が増加しやすい。
この過程で帳簿と実態がズレ、結果として申告漏れや経費否認が生まれる。
3. 経理部門が“院長の延長線上”にある
多くの美容医療法人では、経理スタッフも創業期からの信頼ベースで構成されており、独立性・牽制機能が働きにくい。
つまり、ガバナンスとしての“3線防衛”が成立していない。
他院経営者が今すぐ見直すべき視点
TCBの報道を単なる“他人事”と見なしてはいけない。
むしろ、自院の経営が以下の状態であれば、すでに赤信号だと考えるべきだ。
- 院長・理事長がすべての会計処理を最終判断している
- 店舗単位の損益がExcelで管理され、税理士には通期数字だけを渡している
- 医療法人なのに月次決算をしていない or 総勘定元帳を見ていない
仮に現在の規模が1院〜3院程度であっても、「拡大フェーズに入ったら一気にガバナンスの穴が広がる」ということを前提に、今から備える必要がある。
持続可能な拡大のために導入すべき仕組みとは
美容医療法人が拡大とコンプライアンス”を両立させるには、以下の取り組みが有効だ。
社外取締役または外部会計監査の導入
最低でも年に1回、第三者目線で帳簿・税務・契約構造をレビューする。
店舗別PLを本部で精査し、各院の損益を“見える化”
「医師単位」での売上・利益・歩合の分析が可能な管理体制を整える。
税理士ではなく“経営管理”視点の財務顧問を
節税志向ではなく、成長に耐えうる財務基盤の構築が目的であるべき。
収益性の高さが逆に“モラルの穴”を招く
美容医療は現金収入が多く、売上の振れ幅も大きいため、「管理が甘くなりやすい構造的弱さ」が常に内在する。
高利益を出している法人ほど、「いかに守るか」「どう透明性を担保するか」が問われるフェーズに入る。
TCBの申告漏れ問題は、単なる一社の過ちではない。
急成長法人が避けて通れない“ガバナンスの崩壊リスクへの警告である。
第2回では、さらに踏み込んで「医療現場における無資格者の関与」という根源的なリスクについて分析していく。
