拡散力は、諸刃の剣
美容医療業界において、SNSはもはや集客インフラともいえる存在だ。
Before/After、施術動画、医師紹介、リアルタイムの症例――それらは、検索や広告よりも強い“説得力”を持つ。
だが同時に、運用の仕方を一歩間違えると「信頼の崩壊」に直結する。
TCBの事例はまさにその象徴だ。

【連載企画】美容医療チェーンの落とし穴
美容医療業界で急成長を遂げた「TCB東京中央美容外科(以下TCB)」が、近年複数の報道により厳しい批判にさらされている。本連載では美容外科TCBを巡る一連の報道によって、美容医療業界の“成長と暴走”の構図を浮かび上がらせた同クリニックの運営体制に関して指摘された事象を整理した上で、業界全体が学ぶべきリスクマネジメントの教訓を抽出する。

この連載では、同社に対して報じられた4つの問題――
——をテーマごとに分析し、「他山の石」として他クリニック経営にどう活かすかを掘り下げていく。
信頼を毀損するSNS運用
“サクラ投稿”がブランドを壊すとき
社内スタッフによる“いいね”や“コメント”の指示、サクラ的なレビューの量産。
これは単なるSNS運用の失敗ではなく、「組織ぐるみの信用操作」と受け止められかねない行為だった。
本稿では、SNSがもたらす集客の恩恵とリスクを対比しながら、「透明性を損なわない広報戦略」のあり方を掘り下げる。
報道された“サクラコメント”の構造
文春報道によれば、TCBのある院では、以下のような指示が社内LINEグループなどを通じてなされていた:
- 自院の公式アカウント投稿に対し、「いいね」「コメント」「シェア」を義務付け
- 「全員必ずやること」「コメントが少ないと注意される」といった文面が出回る
- 投稿ごとに「内容に合わせたコメント」を自作するよう指導されていたケースも
一見すると“社内エンゲージメント”や“情報拡散の補助”にも見えるが、外部からは「ヤラセ」「信用の偽装」としか映らない。
しかも、それが半ば業務命令として強制されていたとなれば、社会的な倫理問題として批判の的となるのは避けられない。
なぜスタッフ動員は“麻薬”になるのか?
このような“サクラ的運用”は、美容医療法人において珍しくない。
その背景には、いくつかの共通要因がある。
■1. 投稿成果が「エンゲージメント数」で評価されてしまう
SNS担当者や広報チームに対して、「リーチ数」「いいね数」「保存数」などのKPIが設定されると、内部動員による数字の“嵩増し”が誘惑になる。
スタッフコメントや社内いいねは手っ取り早く数字を稼げるからだ。
■2. クリニックの実力ではなく“盛り”が成果になる構造
SNSは本来「中身(症例・技術)」で勝負するはずが、いつの間にか**“映え”や“数字映え”に評価軸がすり替わる**。
そこに「少しでも印象を良く見せたい」という社内文化が加わると、自然発生的にサクラ投稿が拡大していく。
■3. 医療広報のルールを“マーケの延長”と誤認している
SNSは広報であり、広告であり、医療法や薬機法の規制対象である。
しかし現場では「マーケチームがSNSをやっている」だけの感覚で、医療機関の責任ある発信という意識が希薄になりがちである。
SNSが壊す“信頼資産”の大きさ
SNS上の虚偽的プロモーションやサクラ投稿は、以下の3つの信頼を同時に損なう:
1. 患者との信頼
「口コミが操作されている」「スタッフしかコメントしていない」と気づかれれば、投稿全体が信頼を失う。
ひとつの投稿のために、これまで積み上げたコンテンツ資産全体が崩れるリスクがある。
2. スタッフとの信頼
強制的に「コメントしろ」「いいねしろ」と指示される環境では、スタッフのモチベーションや誇りが損なわれる。
SNSが“社内ストレス”になってしまえば、逆効果である。
3. 医師・法人のブランド
美容医療における“ブランド”とは、単なるネームバリューではない。
症例写真、医師の言葉、患者の声――それらが“本物”であることが、最大の信頼性の担保となる。
サクラが混じった瞬間、それは**“広告用の素材”に格下げされる**。
誠実なSNS運用を設計するには
✔ KPIから“内容重視”に転換する
数値目標だけではなく、「症例写真の質」「医師の語り口」「患者の声の信ぴょう性」など、コンテンツの中身に評価基準を置く。
✔ 投稿の“社内評価”をやめる
スタッフに「SNSを評価項目に含める」ような仕組みを入れれば、自主性ではなく強制になる。
広報はあくまで任意。社内文化に強制感が混じった瞬間、サクラ化が始まる。
✔ “映えよりも熱量”を投稿基準にする
美容医療は感性の領域でもあるが、患者に響くのは結果よりも、プロセスと人間性。
術者の熱量、患者の実感、その両方を言葉にすることが信頼を生む。
偽れない時代に、何を発信するか
SNSは、患者が初めて出会う“診察室の外の医師”であり、その投稿には人格が乗る。
いま求められているのは、「映えること」ではなく、「信じられること」だ。
内部からの盛り上げではなく、外からの共感で広がる投稿だけが、ブランドになる。
それを忘れた瞬間、どれだけの広告費を投じても、クリニックは“信頼されない場所”になってしまう。
次回(第4回)は、最も根深い問題である「高額施術への誘導と営業構造」について、患者視点と経営視点の両面から分析していく。
