一線を越えたとき、何が壊れるのか
「手術室に無資格者が入っていた」
「麻酔を無資格のスタッフが担当していた」
──そんな証言が飛び出したのが、TCBに関する報道の第2波だった。

【連載企画】美容医療チェーンの落とし穴
美容医療業界で急成長を遂げた「TCB東京中央美容外科(以下TCB)」が、近年複数の報道により厳しい批判にさらされている。本連載では美容外科TCBを巡る一連の報道によって、美容医療業界の“成長と暴走”の構図を浮かび上がらせた同クリニックの運営体制に関して指摘された事象を整理した上で、業界全体が学ぶべきリスクマネジメントの教訓を抽出する。

この連載では、同社に対して報じられた4つの問題――
——をテーマごとに分析し、「他山の石」として他クリニック経営にどう活かすかを掘り下げていく。
現場が壊れるとき
“無資格医療行為”が生まれる組織構造とは
もしこれが事実であれば、医療法・医師法に明確に違反する行為であり、法人としての免許取消しにもつながりかねない。
だが業界関係者の中には、「正直、どの院でも起こり得る構図」と感じた者も少なくないはずだ。
本稿では、無資格医療行為が発生する組織的背景を掘り下げながら、“現場の暴走”を未然に防ぐためのガバナンス設計を考察する。
セクション1:報道された「無資格者の医療行為」とは
報道によれば、TCBのある院では、国家資格を持たないスタッフが麻酔処置や術前準備に関与していたとされている。
具体的には:
- 看護師資格のないスタッフが静脈麻酔の準備をしていた
- 手術室に“医療助手”が立ち入り、器具の操作や患者誘導に関与
- これらが一時的ではなく常態化していた疑いがある
このような行為は、医師法違反・保助看法違反に該当する可能性があり、「業として医業類似行為をした」と判断されれば刑事罰の対象にもなる。
セクション2:なぜ“無資格行為”が起きてしまうのか?
TCBの事例は特殊に見えるかもしれないが、以下のような構造は多くの美容医療法人に共通する:
■1. 医師不足と外科症例の集中化
美容外科の中でも「手術症例」をこなせる医師は限られており、一人の医師に複数の手術が集中しがち。
その結果、現場では「少しでも準備を手伝ってもらわないと回らない」という空気が生まれやすい。
■2. 看護師採用の困難と人材の“代替”
都市部でも、看護師の採用は困難を極める。一方で「受付兼カウンセラー」「医療事務」「メディカルアシスタント」などの非医療職スタッフが増え、現場の裁量で“医療補助”を行ってしまう例が後を絶たない。
■3. 教育不足と“暗黙の了解”の拡大
マニュアルでは明記されていないが、「みんなやってる」「このくらい大丈夫」という“現場ルール”が独自に形成されると、管理職や院長が気づかぬまま一線を越えている場合がある。
セクション3:無資格医療行為がもたらす5つのリスク
1. 刑事・行政処分
医師・法人ともに医師法違反に問われれば、免許取消や行政指導のリスクがある。
2. 保険・賠償請求が不成立になる
無資格者の関与が明らかになれば、施術ミスに対する賠償責任保険が適用外になる可能性がある。
3. 労務・雇用契約の崩壊
業務範囲を逸脱させていた場合、労働法違反や労基署の是正勧告を受けるリスクが生まれる。
4. SNS・口コミで一瞬で拡散する
“違法行為”の情報は、スクショ1枚で炎上に直結する時代である。
5. 内部告発の誘発
スタッフの内部通報は、組織風土の歪みが限界を超えたサインでもある。早急な是正措置が求められる。
セクション4:ガバナンス再構築のために今すぐできること
✔ 医療行為の範囲を「具体的」に明文化
- 麻酔薬の準備、針の取り扱い、医療器具の操作などを業務マニュアルに記載
- 誰が・どこまで・いつ関わるかを役職別に明示
✔ 院長の“見ていない時間”を把握する
- 実質的な現場リーダーが誰かを把握し、口頭指示や独自ルールを洗い出す
✔ 第三者研修・監査を取り入れる
- 月1回のオンライン勉強会や、外部専門家による監査で“空気の見直し”を図る
✔ 「医療以外を任せる」人材戦略の再考
- 看護助手ではなく「現場オーガナイザー」や「施術マネージャー」といった立場の創設で、スタッフの役割と限界を明確に
一線を越えない文化を、構造でつくる
“無資格行為”は、現場の善意や効率化への焦りから始まることが多い。
だが一度越えてしまえば、取り返しはつかない。
重要なのは、**「信頼して任せる」ではなく、「絶対に越えられない線を構造で守る」**という発想だ。
美容医療は「医療」である以上、どこまで行ってもルールの上にしか成り立たない。
第2回では、その原点を今一度見直す契機としたい。
次回(第3回)では、SNS戦略と内部レビュー操作問題について、業界の実態と持続可能な広報戦略を掘り下げていく。
