なぜTCBはこれほどまでに叩かれたのか?
その答えは、単なる失策ではなく、急成長する美容医療法人が陥りやすい“構造的リスク”にあります。
本ページでは、TCBに関する一連の報道を4つの視点に分けて整理し、
今、すべての美容クリニック経営者が見直すべき“ガバナンスの盲点”を明らかにします。

本連載の構成と読み進め方
4つのリスク構造について、それぞれの視点から1回ずつ掘り下げて解説していきます。
単なる報道の再解釈ではなく、他クリニック経営にも共通する構造的な問題と、その対策に焦点を当てた内容です。
▶ 第1回|財務の“緩み”が経営全体を壊す
約9億円の申告漏れという事象を出発点に、美容医療法人にありがちな“会計の属人化”やガバナンスの欠落について分析します。
▶ 第2回|現場が壊れるとき――“無資格医療行為”の構造
人手不足や役割分担の曖昧さから生じる、無資格者の医療行為問題。法的リスクと組織崩壊の因果関係を検証します。
▶ 第3回|信頼を毀損するSNS運用――内部動員の代償
SNSが“サクラ化”したとき、どのようにブランドが毀損されるのか。広報運用の透明性と文化設計の重要性を整理します。
▶ 第4回|強引な契約と“押し売り構造”の末路
高額施術のクロージングが“営業文化”として根付くリスクを、現場と経営の両面から解剖します。
崩壊は、成果が出ているときに始まる
TCBの一連の報道を見て、多くの人がこう感じたかもしれない。
「よくある話だ」
「うちには関係ない」
「でもあれだけ大きくなったんだし、多少のことは仕方ない」
──だが、それが一番危ない兆候である。
申告漏れ、無資格者の関与、サクラ投稿、強引な契約。
どれも「拡大の過程で生まれた副産物」であり、成功の証のように見える瞬間がある。
しかし本質は逆だ。
“軸を見失ったときに、成長の形だけが先に膨張した”
──それが今回の事件の根底にある構造だった。
1. 約9億円の申告漏れ:ガバナンスの不在
TCBを運営する法人が、国税局から約9億円の申告漏れを指摘され、追徴課税を受けたと報じられた。この規模の申告漏れは単なる経理上のミスとは考えにくく、組織的な財務管理体制の脆弱さや税務コンプライアンス意識の欠如を示している。
特に急拡大を続ける美容医療チェーンでは、「会計の属人化」や「店舗別管理の限界」がリスクとして現れやすく、監査体制の整備は早期に必要となる。
2. 無資格者の医療行為:法的リスクの顕在化
報道では、無資格者が手術室に立ち入ったうえで麻酔などの医療行為に関与していたとの証言が紹介されている。これは医師法違反の疑いがある重大事案であり、仮に事実であれば刑事・民事両面のリスクが発生する。
現場レベルでの判断や人員不足に起因する“現実的対応”が、法令違反と表裏一体になる構造は、特に急成長中の組織において軽視できない。
3. SNS上の“サクラコメント”指示:信頼の毀損
TCBのスタッフに対して、SNS投稿への「いいね」やコメントを義務付ける指示が社内で行われていたとされる。LINEグループを通じて「全員必ずやること」と指示されていたことから、組織的なレビュー操作とも受け取られかねない状況である。
美容医療業界におけるSNSは、集客の生命線ともいえる存在であるが、不誠実な運用は一気にブランド毀損へと転化することをこの事例は示している。
4. 高額施術への強引な誘導:倫理的リスクと顧客離反
一部の患者が、数時間にわたりカウンセリングルームに拘束され、高額な施術プランを契約させられたと証言している。糸リフトや鼻形成などが対象となり、100万円を超えるプランが提案されたケースもあるという。
こうした強引なクロージング手法は、短期的な売上にはつながる一方、長期的な顧客信頼・リピート率を損ねる要因となりうる。また、消費者契約法上のクーリングオフ対象となる可能性もあるため、法的リスクも見逃せない。
TCBの失敗に学ぶべき4つの視点
- 急成長時ほど「財務と法務」の専門家を外部から入れる勇気を持つこと
- 教育・マニュアルの整備ではなく、“ルールを逸脱できない構造”を先に設計すること
- SNSや口コミ施策は、短期成果より“透明性と信頼”を優先すべきである
- カウンセリング=接客である以上、営業のKPI設計が“強引さ”に直結しないような工夫をすること
この事例は、美容医療という“信頼”が根幹にある業界において、拡大と引き換えに何を失うかを問う警鐘である。
経営者は「患者を集めること」と「患者に裏切られないこと」の両立を、今一度見直す必要があるだろう。
4つの“綻び”に共通していた構造とは?
第1回から第4回で分析したそれぞれの問題に共通していたのは、次のような構造的欠陥である。
内部統制が追いついていないのに、拡大が止まらない
→ 成長スピードに合わせた「仕組みの再設計」が放置されていた
成果指標(KPI)が、現場の暴走を正当化していた
→ 営業数字、SNSの数値、契約率など**“見える成果”に偏った評価軸**
組織文化が“無自覚な逸脱”を容認する空気になっていた
→ 「これくらいは大丈夫」「みんなやってる」という内側の正当化
経営者の目が“数字”と“拡大”に固定されていた
→ 医療者としての矜持や、現場のリアルから遠ざかった視座
これはTCBだけの問題ではない。
今、美容医療業界全体が同じフェーズに差し掛かっている。
“美容医療らしさ”とは何か?
本来、美容医療とは「治療と満足が一致しづらい領域」である。
だからこそ、患者との信頼、現場との信頼、そして経営者としての自己信頼が必要になる。
その“信頼”を支えるために、以下の3つが“経営の軸”として求められる。
✔ 治療の根拠があること
→ 医学的適応、技術の安全性、説明の明瞭さ。「医療」であることを手放さないこと
✔ 働く人が誇りを持てること
→ ノルマや強制、違法グレーの指示ではなく、自律した判断と正当な評価がある環境
✔ 患者が“自分で決めた”と思えること
→ クロージングではなく選択支援。売るのではなく、選ばれる構造
経営者は“見ないふり”をやめられるか?
経営とは、意思決定の連続である。
そして最も危険なのは、“見ないで済ませる”という意思決定だ。
- 財務がブラックボックスでも、税理士に任せているから大丈夫
- 現場が数字を追っても、それは努力している証拠
- SNSが不自然でも、バズってるなら成功だ
- 高額施術が売れても、クレームが出てなければ問題ない
──そういった“静かな崩壊”を、どこで止められるか。
それは、経営者の感度と決断にかかっている。
終わりに:拡大する前に、“戻る力”を持っているか
企業にとって、拡大は目標になりやすい。
だが医療法人にとって、本当に問われるのは「どれだけ正しく戻れるか」である。
制度が崩れたとき、文化がゆがんだとき、信頼が揺らいだとき──
それを元に戻す力を、経営のどこに仕込んでいるか。
TCBの事例は、その問いを私たちに突きつけている。
この連載が、“あのとき止めておけばよかった”を、未然に防ぐ契機となることを願っている。
【連載企画】美容医療チェーンの落とし穴
美容医療業界で急成長を遂げた「TCB東京中央美容外科(以下TCB)」が、近年複数の報道により厳しい批判にさらされている。本連載では美容外科TCBを巡る一連の報道によって、美容医療業界の“成長と暴走”の構図を浮かび上がらせた同クリニックの運営体制に関して指摘された事象を整理した上で、業界全体が学ぶべきリスクマネジメントの教訓を抽出する。

この連載では、同社に対して報じられた4つの問題――
——をテーマごとに分析し、「他山の石」として他クリニック経営にどう活かすかを掘り下げていく。
