美容クリニックの開業は、近年ますます注目を集めるビジネスチャンスとなっています。その背景には、美容医療への関心の高まりや、手軽に受けられる施術の普及があります。しかし、クリニックを開業するには多大な資金が必要であり、医師一人では負担しきれない場合が少なくありません。そのため、資本家との共同経営が選択されることがあります。

資本家(出資者)は、医師免許を持たないものの、豊富な資金やビジネス経験を持つ人物として、クリニックの運営において重要な役割を果たします。一方で、医師は患者さんの治療や医療行為を担い、クリニックの顔としての役割を果たします。こうした医師と資本家の共同経営には、多くのメリットが期待される一方で、実際にはうまくいかないケースも少なくありません。
本記事では、なぜ医師と資本家(出資者)の共同経営がうまくいかないのか、その理由を探り、成功への鍵を考察します。
医師と資本家(出資者)の役割と期待のズレ
美容クリニックを開業したい医師は、患者さんの治療に加えて、自身が経営者としての責任を担うという意識を持っています。医療の質を保ちつつ、クリニックを成功に導くことが自身の役割だと考えています。しかし、現実には経営の経験や知識において資本家の方が優れている場合が多く、医師が経営において主導権を握るのは簡単ではありません。

共同経営という言葉に期待を抱き、資本家(出資者)と対等なパートナーシップを築けると信じる医師は少なくありませんが、実際には資本家の方が経験値やビジネス知識に長けており、その結果、知らず知らずのうちに経営の主導権を資本家に握られてしまう可能性があります。このような状況は、医師にとって不本意であり、後に大きなフラストレーションを生む原因となり得ます。
こうした期待と現実のズレが、クリニックの運営において問題を引き起こし、医師と資本家の間に軋轢を生む原因となります。
利益追求と医療倫理の衝突
資本家が医師と手を組む大きな理由は、クリニック経営には医師免許が不可欠であるためです。美容クリニックの運営においては、医療行為を行うために医師の存在が必須であり、資本家はこの点を活かしてビジネスチャンスを広げようとします。そのため、MS法人を共同で設立し、クリニックを経営するという形がよく見られます。
資本家の利益追求と医師の医療倫理
資本家にとって、クリニックは一つの収益源であり、投資に対するリターンを最大化することが主な目的です。マーケティング戦略やコスト削減、利益率の向上を重視し、ビジネスとしての成功を追求します。しかし、こうした利益追求が、医師の持つ医療倫理と衝突することがあります。

医師にとって、患者さんの健康と満足度が最優先であり、治療の質を犠牲にして利益を追求することは受け入れがたいことです。特に、美容医療においては、患者さんの期待に応えつつ安全な治療を提供することが求められます。このような状況で、資本家の利益優先の姿勢が医療倫理に反する場合、医師は大きなジレンマに直面することになります。
MS法人とは?
MS法人(Medical Service法人)は、医療機関に対して経営支援やサービスを提供する法人です。資本家と医師が共同で設立することが多く、クリニックの運営に関わる管理業務や経営全般を担当します。なおMS法人を通じてクリニックの収益を吸い上げる形で利益を得ること自体は節税効果もあるため否定するものではありません。
経営方針の違いが生むストレス
美容クリニックの運営において、医師と資本家の経営方針の違いは、クリニックの方向性や日々の業務において大きなストレスの原因となります。特に、クリニックの成長戦略やマーケティングに関する意見の相違が顕著です。
資本家の事業拡大志向と医師の慎重な姿勢

資本家は、クリニックの規模を拡大し、収益を最大化することを目指します。そのため、積極的な広告展開や新しい施術メニューの導入、支店の増設などを推進します。これに対して、医師は自分が理想とする治療を提供するために独立開業を考えていました。しかし、資本家からのうまい話に乗った結果、思い描いていた診療ではない分野での集客が進んでしまうケースが多く見られます。
マーケティングや広告戦略の違い

資本家が主導するマーケティングや広告戦略により、クリニックが想定していなかった治療メニューで集客されることがあります。医師は、自分のやりたい治療を提供するために独立したはずが、資本家の意向により別の診療分野での集客が優先される状況に不満を感じます。この結果、医師がやりたいことをできない状態が続き、経営に対するモチベーションが低下することがあります。
日々の運営における意見の食い違い
クリニックの日常業務においても、経営の方向性や運営方法に関する意見の食い違いが発生します。資本家は効率的な運営やコスト削減を求めますが、実際にはそれでは現場が回らないことが多く、医師はその現実を経験上理解しています。医師は自分が独立開業したはずなのに、次第に「指示されている立場」や「乗っ取られた」と感じるようになります。

このような葛藤が医師の中で積み重なる一方で、運転資金を提供してもらっている立場上、資本家に強く言えないこともまた事実です。このジレンマが、次第に医師と資本家の間に亀裂を生じさせ、クリニックの運営に悪影響を及ぼすことになります。
経営者としての責任感の違い
美容クリニックの経営において、医師と資本家の間に存在する責任感の違いが、しばしば両者の関係に緊張をもたらします。この違いは、クリニックの運営に対する姿勢や優先事項の相違から生じるものです。
医師の責任感

医師にとって、クリニックは自らが提供する医療の場であり、患者さんの健康や満足度に対して強い責任感を抱いています。美容クリニック、特に自費診療を行うクリニックを開業する医師は、高い利益を狙いつつも、患者さんに最良の治療を提供するという使命感を持っています。例えば、「この機器があれば治療の選択肢が広がる」と考え、高額な機器を購入することがあります。こうした行動は、表面上は利益を追求しているように見えますが、実際には患者さんのためを思っての決断です。
資本家の責任感

一方、資本家はクリニックをビジネスとして捉え、収益性や投資のリターンに対する責任感を持っています。彼らにとって、クリニックは一つの事業であり、その成功は経済的な成果に直結します。資本家は、クリニックが収益を上げるために効率的に運営されることを求め、そのための戦略や方針を打ち出します。
このようなビジネス中心の考え方に基づいて、資本家は同様のスペックを持つ機器があれば、コストを抑えるために安価なものを選定しようとする傾向があります。さらに、医療広告ガイドラインの穴をついたグレーゾーンでの集客や、効率的に利益を上げるための手段を取ることもあります。このようなアプローチは、医師にとっては患者さんの利益を損なう可能性があるため、受け入れがたいものです。
すれ違う責任感が生む緊張
医師と資本家が持つ責任感の方向性が異なるため、両者の間にはしばしば緊張が生じます。医師が患者さんのために質の高い医療を提供しようとする一方で、資本家はクリニックの収益を最大化することを求めます。この相反する責任感が、経営方針や運営に関する意見の対立を引き起こし、最終的には両者の関係に亀裂を生む要因となります。

医師は、自らの責任感に基づき、患者さんのために最良の治療を提供しようとしますが、その過程で資本家からのビジネス的な要求が増大するにつれ、自分がやりたいことを犠牲にしていると感じるようになります。この葛藤が積み重なると、医師は次第に資本家との関係に疑念を抱くようになり、共同経営が難しくなる原因となるのです。
それは良い考えだと思います。では、提案いただいたポイントを補足しつつ、前述の内容をさらに深めてみましょう。
解決策と成功のためのポイント
医師と資本家の共同経営がうまくいかない理由が多々ある中でも、成功するためのポイントを押さえることで、両者のパートナーシップを強化し、クリニックを安定的に運営することが可能です。以下のステップを通じて、医師と資本家が協力し、クリニック経営を成功させるための解決策を考えていきます。

自分のビジョンを明確に伝えること
共同経営を始める前に、医師は自分がやりたいこと、つまり診療メニューや治療方針について、資本家に対して明確に伝えることが第一歩です。この段階で、自分のビジョンが資本家によって否定されるようであれば、無理に手を組む必要はありません。医師自身が自分の理想を貫き、資本家にそれを理解してもらうことが、後の経営におけるストレスを軽減するためにも重要です。
明確な役割分担と相互理解
ビジョンが共有されたら、次に重要なのは役割分担の明確化です。ただし、経営部分をすべて資本家に任せてしまうことは避けるべきです。医師も経営戦略に関しては指導を仰ぎつつ、自分の意見をしっかりと反映させることが求められます。こうすることで、医師が自分のクリニックにおける主導権を失わず、経営にも積極的に関与できる環境を作ることができます。
リスク管理と透明性
共同経営を成功させるためには、契約の段階でリスク管理と透明性を確保することが求められます。例えば、クリニックの利益配分や意思決定のプロセス、万が一の際の対応について、あらかじめ詳細に取り決めておくことが重要です。また、利益の案分方法についても初期の段階で合意しておくことで、後々のトラブルを防ぎ、両者が安心して経営に取り組むことができます。
信頼関係を築くためのコミュニケーション強化

成功する共同経営には、医師と資本家の間に強固な信頼関係が不可欠です。定期的にミーティングを行い、お互いの意見や懸念を共有することで、問題が生じた際にも迅速に対応できます。さらに、オープンなコミュニケーションを通じて、医師が自分の理想とする治療方針を貫くためのサポートを資本家から得られるようにすることも大切です。
契約を急がない
共同経営を成功させるためには、契約を急がないことが非常に重要です。資本家との契約はもちろんのこと、物件の契約や機器の購入契約など、開業に関わるあらゆる契約を慎重に進める必要があります。資本家は早く事業を始めたいという思いから、医師に対して契約を急かすかもしれませんが、ここで急ぐことは後に大きな問題を生む可能性があります。

実際に、多くの契約は医師の個人契約として締結されることがほとんどです。これは、クリニックの運営におけるリスクが医師個人に大きくかかってくることを意味します。そのため、契約内容を十分に理解し、自分にとって不利な条件がないかを確認することが不可欠です。また、すべてが決まってから動き出すことが、後々のトラブルを未然に防ぎ、クリニックの安定した運営に繋がります。
契約を急がず、時間をかけて慎重に進めることで、資本家との信頼関係も強化され、共同経営が成功する可能性が高まるでしょう。
まとめ

医師と資本家の共同経営は、一見するとお互いの強みを活かした理想的なパートナーシップに思えますが、実際には多くの課題が存在します。これまでに述べたように、医師と資本家の間には、役割や責任感、経営方針に対する考え方の違いがあり、これが経営における摩擦や緊張を生む原因となります。
共同経営を成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 自分のビジョンを明確に伝えること
まずは、自分がやりたい診療メニューや治療方針をしっかりと資本家に伝え、そのビジョンを共有できるかどうかを確認することが不可欠です。ビジョンが共有されることで、後の経営判断においてもブレない方向性を持つことができます。 - 役割分担と相互理解
経営の中での役割分担を明確にしつつ、医師も経営戦略に関与する姿勢を持つことが重要です。資本家に全てを任せるのではなく、自分も経営に口を出し、責任を共有することで、クリニックの運営に対する主導権を確保できます。 - リスク管理と透明性
契約段階でリスク管理と透明性を確保することが、共同経営の成功に不可欠です。利益配分や意思決定のプロセスについて、あらかじめ詳細に取り決めることで、後々のトラブルを防ぎ、両者が安心して経営に取り組める環境を整えましょう。 - 契約を急がない
資本家との契約や物件の契約を急がないことが大切です。多くの契約が医師の個人契約になるため、慎重に進めることが求められます。すべての条件が納得いくものであることを確認してから動き出すことで、後々のトラブルを未然に防ぎ、クリニックの安定した運営を実現することができます。
最後に、医師と資本家が本当に協力して成功を目指すには、お互いの強みを活かし、責任を共有する姿勢が欠かせません。経営の主導権を失わずに、自分の理想とするクリニックを実現するためにも、以上のポイントを意識しながら、慎重にパートナーシップを築いていくことが重要です。
