豊胸手術の失敗:大胸筋下法における剥離不足が招いた160万円の賠償

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豊胸手術は、現代の美容整形の中でも非常に人気の高い施術のひとつです。しかし、その一方で、手術が失敗に終わるケースも少なからず存在します。本記事では、実際に発生した一例をもとに、大胸筋下法という手術方法におけるリスクと、その失敗がどのように160万円の賠償へとつながったのかを解説します。このケースを通して、美容整形における技術的な問題や医師の説明義務、そして患者の苦悩について考えていきます。

裁判の概要

  • 平成19年1月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
  • 平成17年(ワ)第21988号損害賠償請求事件
  • 口頭弁論終結日平成18年11月16日
  • 判決文はコチラで読めます

原告(A)は美容外科で豊胸手術を受け、術後に複数の問題が発生しました。手術は腋下から切開し、大胸筋下にバッグを挿入する方法(大胸筋下法)で行われました。しかし、手術後、原告は腋下に目立つ傷跡が残り、乳房の形状が不自然になったこと、また、胸や肩に断続的な痛みを感じたことを訴えました。原告は、これらの問題は医師の説明不足や手技のミスによるものだと主張しています​。

訴訟の経緯

原告は、被告である美容外科の医師が次の義務を怠ったとして訴訟を起こしました:

  1. 手術による傷跡について十分な説明をしなかったこと。
  2. 他の術式の選択肢やリスクについて十分な説明をしなかったこと。
  3. 手術中に大胸筋を十分に剥離せずにバッグを挿入し、乳房の形が不自然になったこと。
  4. マッサージの指導が不十分だったこと。

被告側は、手術の方法や説明に問題はなく、原告の乳房の形状が不自然になったのは、原告自身のマッサージ不足が原因であると主張しました​。

判決文の結論

裁判所は、被告の手術中の義務違反を一部認めました。特に、左乳房のバッグ挿入に際して、大胸筋下の剥離が不十分であったために、バッグが正常な位置に収まらず、不自然な乳房の形が生じたと認定しました。一方、傷跡の説明不足やマッサージの指導に関する原告の主張は認められませんでした。裁判所は、被告に対し、160万円の賠償を命じました​。

裁判の背景

この事件は、女性(原告)が、美容外科クリニックで受けた豊胸手術に関するものです。原告は、過去に受けた豊胸手術で挿入されたバッグに拘縮が発生し、乳房が硬く不自然な形になったことに悩んでいました。そこで、原告は美容外科クリニックで再手術を受けることを決めました。

手術は「大胸筋下法」と呼ばれる方法で行われました。この術式は、腋下から切開し、大胸筋の下にバッグを挿入するもので、手術後の痛みが比較的強いものの、乳房に傷跡が残らないという利点があります。しかし、手術後に問題が発生しました。原告は術後、以下の症状を訴えました:

  • 腋下に目立つ傷跡が残る
  • 乳房の形が不自然に崩れ、特にバッグが正常な位置に収まらない
  • 胸や肩、腋に痛みが継続的に発生

これらの症状に対して、原告は手術を担当した医師に責任があるとし、医師の過失を主張する訴訟を提起しました。

手術の失敗と患者の苦悩

手術後、原告は期待していた結果を得ることができず、逆にさまざまな問題に苦しむことになりました。最も大きな問題は、バッグの挿入位置が不適切だったことによる乳房の不自然な形状です。特に、左乳房のバッグが高すぎる位置に固定され、乳頭部がバッグの下に押し下げられた形になり、外見的に不自然な見た目となりました。

さらに、原告は腋下の切開部分に5〜6cmほどの目立つ傷跡が残り、この点も大きな不満となりました。腋下からのアプローチは、乳房に傷跡を残さない利点がある一方で、腋下に目立つ傷跡が残るリスクが伴います。原告にとって、この傷跡は美容目的で行った手術の結果としては受け入れ難いものでした。

また、手術後、原告は胸、肩、腋に継続的な痛みを感じました。特に、バッグが正しい位置に収まらなかったことで神経が圧迫され、腕の動きにも制約が生じました。これにより、日常生活にも支障をきたすようになり、原告は再手術を余儀なくされました。

原告は、これらの結果に対し精神的にも大きな苦痛を受け、手術を担当した医師に責任があると訴えました。このような背景があり、原告は医師の過失を問う訴訟を提起しました。

法廷で争われたポイント

この訴訟では、手術を担当した医師(被告)の手技と説明義務の欠如が焦点となりました。法廷で争われた主なポイントは次の4点です。

1.手術に関する説明義務の欠如

原告は、手術のリスクや他の手術方法について、十分な説明を受けていなかったと主張しました。特に、腋下切開による傷跡が目立つ可能性や、大胸筋下法ではバッグの位置が高くなるリスクについての説明がなかった点が問題視されました。原告は、これらのリスクを知っていれば、別の手術方法を選んだ可能性があったと主張しました。

2. 手術技術における過失

原告は、手術中の剥離範囲が不十分だったため、バッグが正常な位置に収まらず、結果として乳房の形が不自然になったと指摘しました。特に左乳房のバッグが高い位置に固定されてしまったため、乳房の上部が異常に膨らみ、左右の乳房のバランスが崩れたと主張しました。

3. マッサージ指導の不備

被告側は、手術後のマッサージが不十分であったことが、乳房の形が崩れた原因だと反論しました。手術後のバッグの位置を維持するためには、定期的かつ適切なマッサージが必要とされますが、原告はこのマッサージを怠ったために問題が生じたと主張されました。

4. 痛みとその他の症状に関する因果関係

原告は、バッグが正常な位置に収まらなかったため、胸や肩、腕に断続的な痛みを感じたと訴えました。被告側は、手術後の疼痛は手術方法に伴う一時的なものであり、バッグの位置や剥離不足とは無関係であると反論しました。

これらの争点について、裁判所は慎重に審議し、次に述べる結論に至りました。

裁判所の判断

裁判所は、原告と被告双方の主張を精査した上で、いくつかの重要な判断を下しました。

1. 剥離不足による乳房の形状異常

裁判所は、原告の主張を一部認め、手術中に大胸筋下の剥離範囲が不十分であったために、バッグが正しい位置に固定されず、結果として乳房の形が不自然になったと認定しました。特に、左乳房においては、バッグが高い位置に移動し、乳頭が下方に押し下げられる異常な状態が生じていたと判断しました。被告側が主張したマッサージ不足が原因であるとの反論については、マッサージが原因であれば左右両方の乳房に同様の異常が発生するはずであるとし、原告のケースでは剥離不足が直接的な原因と結論づけられました。

2. 説明義務違反について

原告は、術前に十分な説明がされていなかったと主張しましたが、裁判所はこの点については原告側の主張を認めませんでした。具体的には、腋下切開に伴う傷跡についての説明が不十分だったとの訴えについて、裁判所は傷跡の長さが通常範囲内であり、修復可能であったことを指摘しました。また、術式に関する説明も一般的なリスクについては伝えられていたと判断され、説明不足と手術結果との因果関係は認められませんでした

3. 痛みとその他の症状についての判断

原告は、手術後に胸や肩、腋に痛みを感じたと主張しましたが、裁判所はこの点に関しても、バッグの位置異常が痛みの原因であるとの証拠は不足していると判断しました。術後の痛みについては、大胸筋下法に伴う一般的な疼痛である可能性が高く、手術技術の過失と痛みとの因果関係は認められませんでした。

4. 被告の責任

最終的に、裁判所は、左乳房にバッグを挿入する際の剥離不足による手術ミスが重大な過失であり、これは民法709条の不法行為に該当すると認定しました。また、被告が手術を直接行ったか、あるいは指導した立場にあった場合でも、いずれにせよ、被告は損害賠償の責任を負うと判断されました。

賠償金額の根拠

裁判所は、手術によって発生した損害に対し、160万円の賠償を命じました。その内訳は以下の通りです。

1. 治療費:90万円

原告が受けた豊胸手術は、大胸筋下の剥離不足により失敗に終わりました。手術そのものが無駄になり、再手術が必要となったため、裁判所は手術費用90万円を損害として認めました。再手術では、バッグの取り出しや新たな手術が必要でしたが、そのうちの一部は、仮に本件手術を受けなかった場合でも必要であったものとされ、損害には含まれませんでした。

2. 慰謝料:50万円

豊胸手術の失敗による精神的苦痛も裁判所により認められました。特に、左右の乳房のアンバランスや不自然な形状は、日常生活や心理面で大きなストレスを引き起こしました。裁判所は、これらの状況を踏まえ、50万円の慰謝料を相当であると判断しました。

3. 弁護士費用:20万円

訴訟を通じてかかった弁護士費用も損害として認められました。裁判所は、案件の複雑さや訴訟の結果を考慮し、20万円を弁護士費用として算定しました。

4. その他の損害について

原告はさらに、再手術にかかる宿泊費や交通費、疼痛による休業損害も請求しましたが、裁判所はこれらの損害については本件手術の結果と直接的な因果関係が認められないとして、却下しました。

総合計:160万円

これらの損害を合算し、裁判所は160万円の賠償を認める判決を下しました。この金額は、原告が受けた精神的苦痛や手術失敗による実質的な損害を補填するものとして算定されました。

今回のケースが示す教訓

この裁判例は、豊胸手術の失敗がもたらす深刻な結果と、そのリスクに対する医師と患者の責任について、いくつかの重要な教訓を示しています。

1. 医師の説明義務の重要性

今回のケースでは、裁判所は医師の説明不足を認めなかったものの、手術のリスクや選択肢に対する十分な説明が患者の権利を守るために不可欠であることが浮き彫りになりました。美容手術のような選択的手術においては、患者がリスクを完全に理解し、納得した上で手術を受けることが非常に重要です。特に、手術後の経過やリスク、術後ケアについても明確に説明される必要があります。

2. 手術技術の精度が結果を左右する

このケースでは、大胸筋下法における剥離不足が主な失敗原因となりました。医師の技術的な判断ミスが患者に与える影響は大きく、美容手術においても高い技術力が求められます。医師は、手術の技術的な側面だけでなく、患者の体型や手術の難易度を考慮した慎重な施術が必要です。

3. 手術後のケアの重要性

被告側はマッサージ不足を問題視しましたが、裁判所は技術的な問題が主な原因と判断しました。とはいえ、手術後のケアは結果に大きく影響を与える可能性があるため、患者が適切なアフターケアを受けることが成功につながります。医師側も患者に対して継続的なサポートや指導を提供する責任があります。

4. 患者の慎重な選択が求められる

患者も手術前に十分な情報を得て、リスクを理解した上で手術を選択することが重要です。特に豊胸手術のような美容整形は、身体への影響が大きいため、医師の説明だけに頼るのではなく、自身でも調査し、納得した上で手術に臨むべきです。

5. 再手術のリスク

再手術が必要になった場合、患者は追加の費用やさらなる身体的・精神的負担を負うことになります。今回のケースでも、原告は不自然な乳房の形を修正するために再手術を余儀なくされました。こうしたリスクは、手術前に十分考慮されるべきです。

結論

今回の豊胸手術における失敗は、大胸筋下法における剥離不足が主な原因でした。このケースからは、美容整形手術がもつリスクと、そのリスクを回避するための医師と患者の責任が浮き彫りになります。医師にとっては、手術の技術的な精度だけでなく、患者に対しての事前説明や手術後のケアが重要です。患者にとっても、手術のリスクをよく理解し、慎重な決断を下すことが不可欠です。

美容手術は外見を改善するための手段ですが、同時に身体的、精神的に大きな影響を与えます。この事件を教訓に、医師と患者の双方がより良い結果を目指すために、手術前の準備やリスク管理を徹底することが必要だと言えるでしょう。

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この記事を書いた人

NRSK JAPANのアバター NRSK JAPAN ビューティメドラボ代表

美容医療業界において、経営、マーケティング、店舗開発、運営などあらゆる分野で豊富な経験を持つエキスパート。いつか誰かの役に立つ人になりたくて「ビューティメドラボ」を開設。加速する老化に逆らいながら、化粧品検定3級の資格を活かしてこれまでに培ってきた知見を書き残しています。
令和3年12月9日:初めての美容クリニック開業まるわかりガイド執筆開始(すぐに頓挫する)
令和6年7月1日:ビューティメドラボ公開
令和6年8月31日:化粧品検定3級合格
防火管理者としての経験も併せ持つマルチな才能を存分に発揮すべく、ビューティメドラボの更新活動を精力的に行っている。